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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.300
   by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

令和6年3月31日

     「もしカミ」、「もしコイケ」、「もしキタ」?

 今年1月のコラムで、元日の能登半島地震から始まって、今年の日本は何が起きても驚きではないと予言(?)した。

 その通りに、全く予見しなかった事案が続発している。

 110年ぶりの新入幕優勝もさることながら、国民的アイドルになっている野球の大谷翔平選手の結婚ニュースと、その直後に突発した賭博スキャンダル(本人ではないが)。
 気の毒だが、これほどの明暗直結の人生というのも珍しいだろう。

 この衝撃は、大地震に匹敵するほどの時間を割いて、テレビで報道され続けている。

 能登半島地震と、大谷関係報道の陰で、自民党の裏金・政治資金問題が、多少かすんだとはいえ、引き続き大派閥の解体という誰も予期しなかった展開になっている。

 これは、岸田文雄首相(自民党総裁)の能力不足をあからさまにしてしまったため、次の総選挙を戦えないという状況になっている。

 そこで、自民党は乾坤一擲、女性の総裁を担いで総選挙に打って出るのではないか、という希望的観測(!)が出始めている。もし実現したら、日本で初めての女性首相が生まれるチャンスである。

 米国政治では、もしトランプ候補が当選したらという「もしトラ」が、これまでの共和党内予備選挙の圧勝で、早くも「もし」から「ほぼトラ」に進んだという見方が有力だ。

 日本で、その次期アメリカ大統領と対面するのが女性首相、というオドロキがありうるだろうか。
 もう候補としては上川陽子外相の名が囁かれているので、「もしカミ」ではそれほどの驚きではないかもしれない。

 では、「もしコイケ」はどうか?

 そう、都知事の小池百合子(元防衛相、環境相)が、辞職して自民党に戻り、すぐ総裁に選ばれて総選挙に勝つという皮算用(誰の?)である。

 非議員の総裁というハードルがあるので、「もし」度は高いが、ご本人の野心には定評があるという。

 女性絡みの驚きの続きで、前月コラムで指摘した北朝鮮の対日すり寄りが、金与正・党副部長が前面に出てエスカレートしている。
 
 金与正は2月15日の「岸田を肯定的に評価」する談話に続いて、3月25日にも「岸田首相が首脳会談を希望している」と明言し、「拉致問題は解決済み」だから、それを持ち出さないなら歓迎すると言わんばかりの条件を示した。

 その条件を「受け入れられない」と林官房長官がすぐ反論したのに対し、翌26日、金副部長は、「では日本との接触を拒否する」と強硬な態度に転じて見せた。

 この3度に及ぶ対日発言の真意はどこにあるのだろうか?

 金与正の言いたいことは2つあると思われる。ひとつは、対日外交の責任者は自分だと日本に対して発信しているのだろう。
 日本は、歴代の首相と外務省が、複数のルートを探って北と意思の疎通を図ろうと努力を重ねている。

 金副部長はそれが気に入らないのではないか。官房長官の談話に反発して、「下っ端でなく、あなたが私だけを相手にしなさい」と岸田に要求したのだろう。

 そして2つめは、拉致問題は国交正常化のあとに取り組むのが筋ではないか、と問いかけているのではないか。

 では、「もしキタ」はどう出るか? 日本が最重視する拉致問題を逆手にとって、まず国交正常化を先に議題とし、日本に対するエサとして「竹島」を日本領として認めると言い出す可能性があるだろう。

 これは、島根県の竹島を不法占拠しているのは韓国なので、北朝鮮は何も実質的に譲ることなしに、日本に最大級の恩義を与えることになる。

 昨年から今年にかけて、北朝鮮は韓国を平和的統一の相手ではなく、敵対する隣国と認定し直したので、日本と利害を一致させる格好の道具として、竹島を使えることになった。

 つまり、北朝鮮の立場に立って、どうすれば日本を惹きつけて、日米韓の側から引き離すことができるかを考えてみればいい。

 竹島を餌にして岸田首相を平壌に呼び寄せ、国交正常化と相互不可侵条約などの安全保障措置を実現したあと、本気で拉致問題の解決に手を付けようと説得する。

 当コラムでは、もう8年前に、北朝鮮が日本に連邦国家を創ろうと提案してくるという政治ファンタジーを載せた。いま、その夢物語の半分ほどに北が動いてきたのかもしれない。

以下に、2016/09/27付けコラム「北朝鮮が日本に連邦国家提案?」の一部を再掲する。

<北の指導部は、日本との連邦を申し入れる際、3つの条件を付ける。

 1.連邦国家の元首は日本天皇。
 2.日本の非核三原則を受け入れる。
 3.その他はすべて交渉の対象とする。

 さあ、申し入れを受けた日本政府はどうする、どうする?
 
 日本は即座に拒絶することはできない。なぜなら、日本の最大の北朝鮮問題は核とミサイルなのだから、この提案は願ってもない満点の答を得ることになるからだ。
 
 拉致問題も大きいが、「その他」の問題として交渉が続くことになる。
       (中略)

 北が中国に吸収されるのは韓日米が困る。韓国が単独で吸収するのは明らかに不可能だ。
 逆に北が単独で韓国を吸収するのも夢物語だから、結局、北朝鮮は核とミサイルに国家資源を浪費しながら、無自覚に緩慢な死を待っているだけと周辺諸国は見ている。

 オバマ米大統領の「戦略的忍耐」政策とはそういう意味である。北の核とミサイルの増強を見過ごしているだけではないかという批判も強いが、米国としては現実の脅威になるとは考えていない。

 この客観情勢を理解できれば、生き残りの道は日本のふところに飛び込むしかない、という結論になる「はず」だ。>(再掲おわり)

今日はまだエイプリルフールではありません。
(おおいそ・まさよし 2024/03/31)


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