国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.311 by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表) 令和7年2月27日 早くも自分に王冠をかぶせたトランプ 前コラムの続きのようになるが、今月20日でトランプ大統領の就任1ヵ月、24日でロシアのウクライナ侵攻3年を迎えた。 トランプはカナダ、グリーンランド、パナマ運河に対する支配欲に加えて、ガザを「所有」して開発し、リビエラのようなリゾート地にしたいと表明した。 それには住民のパレスチナ人2百万以上を、すべて隣国に移住させる必要があると公言し、あまりのことに世界が唖然とするに至った。 トランプご本人は、それが至極当たり前の発想だと思っているようだ。すでに分かっているように、彼の人生はすべてが不動産開発業を中心に置いていて、テレビ司会者や政治的動きもすべて、そのための支援作戦としてしか見ていないのである。 それが分かると、グリーンランドは広すぎる上に寒すぎるので、リゾート開発には向いていない。その反対に、ガザは適当な狭さで地中海に面している。こんな適地はそうないぞ。 トランプの頭の中では、瞬時に、ゴルフ場をどこに造るか、幾つ造るか、リゾートホテルと分譲高級マンションを、どこにどれだけ建てればいくら儲かるか、すぐ計算ができているに違いない。 住民をどうすれば立ち退かせることができるか。いままで、カネでなんとでもなった経験が生きているのだろう。アメリカの大統領なのだから、何でもできるはずだ。 それが、トランプという人間の本質だと、世界中が割り切る(?!)ことが、まず必要になってきた。 ウクライナに関しても同様だ。弱者の立場のウクライナに対し、いままでの援助5000億ドル(実際は1100億ドル強)の見返りに、ウクライナの地下資源の権益(売上げ)と港湾などの運営権を米国が独占管理し、半額分を返済金としていただくと要求した。 ゼレンスキー大統領は、将来の安全保障が担保されていないとして、いったんは拒否したが、このように相手の足もとを見て「吹っかける」やり方は、アメリカは歴史上、何度もやっているのである。 あれほどの大国がまだ領土が欲しい、資源が欲しい、権益が欲しいというのは、日本のような国から見れば理解しがたいところだが、実は日本も、そのトバッチリを、大きく受けた苦い経験をしているのである。 1904〜5年、日本の歴史では日露戦争に勝利し、世界を驚愕させたことになっているが、日本はロシア海軍を壊滅させただけで、陸軍がロシアに攻め入って極東ロシアを占領するような軍事力を、全く有してはいなかった。 その状態を見抜いた第26代セオドア・ルーズベルト大統領が仲介を買って出て、ポーツマス講和会議で和平が成立した(1905年9月)。 セオドアは日本びいきで、戦争中も日本に助け船を出したように思われているが、実は、講和会議の裏で、日本がロシアから譲渡される満州の鉄道(後の南満州鉄道)に、アメリカ資本を割り込ませるよう画策していた。 有名な鉄道実業家ハリマンは、ポーツマス会議中に日本を訪問し、1億円の出資と引き換えに、日米均等のシンジケートで満鉄の経営に当たろうと提案した。 歴史にif(もし)はないと言われるが、仮に日本がこの要求を呑んでいたら、後の日中戦争(当時は支那事変)も日米激突もなかったかもしれない。 そういう見方もできるが、逆に日米の思惑が食い違い、対立が前倒しになっていたかもしれない。 「日米均等で」というところが、トランプのウクライナへの要求と共通していて面白い。 ちなみに、満鉄は日本の満州経営の実質を担い、最盛期には日本の国家予算の半分の資本金、社員数40万人、鉄道総延長は1万キロに及んだ。 その莫大な価値を、米国側が予め認識していたとしたら、当てが外れた恨みも大きかったであろう。 満鉄の頭脳に当たる「満鉄調査部」は、シンクタンクのハシリとも言え、戦後の経済企画庁(現内閣府に統合)や民間シンクタンクにDNAが受け継がれている。 このセオドア・ルーズベルトの前任大統領がマッキンリーで、トランプの憧れの存在であることは有名だ。 2015年に当時のオバマ大統領が、アラスカ先住民の呼び名である「デナリ」に変えたのを覆し、就任初日に、デナリを「マッキンリー山」に戻した(標高6,190m)。 同じ大統領令で、メキシコ湾を一方的に「アメリカ湾」に変更し、メキシコを怒らせている。 このマッキンリー大統領が1898年、キューバの反乱に乗じてスペインに戦争を仕掛け、フィリピンとグアム、プエルト・リコを獲得している。 次のセオドアも、日露戦争後の日本を警戒して反日に転じ、急いでハワイを併合している。 この時代のアメリカ大統領の言動をなぞるかのように、トランプという歴史を逆行する大統領が登場したわけである。過去の大帝国に憧れるプーチン、習近平と変わるところがない。 米国内でも、さすがに「独裁者」とか「帝国主義」といった批判がメディアにも出始めたが、トランプは却って公式SNSで「王様万歳」と自分に王冠をかぶせて見せた。 こうなると、次は「王様は裸だ!」となるのは必至だろう。 (おおいそ・まさよし 2025/02/27) |