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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.315
   by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

令和7年6月28日

       前評判の通りか不明の地中貫通弾

もし「今月の流行語大賞」というのがあるとしたら、6月は断トツ、「バンカーバスター」で決まりだろう。

 トランプ米大統領が2週間先とほのめかしておいて、いきなりイランに大規模空爆を実施し、目的の核施設3ヵ所にこの地中貫通爆弾を14発、落としたのだ。

 トランプは「戦争を終わらせるのが目的なので、広島や長崎と本質的に同じだ」と言い訳した。
 もちろん、原爆投下を正当化する米国の世論に乗じたもので、日本国民にとっては到底受け入れられる論理ではない。

 しかし、あの原爆と共通する要素があるにはあるのだ。それは、戦争を終わらせることとは無関係の、2つの分析を必要とする。

 その1つは、新兵器の開発に成功すれば、それは実戦使用によって証明されなければならない、と関係者一同が考えるということである。

 かつて当コラムで指摘したように、原爆は実験に成功したあとすぐに、トルーマン大統領の命令で、広島には濃縮ウラン型、長崎にはプルトニウム型と分けて、実戦使用に踏み切った。

 そして翌日には高空から地上の被害状況を撮影して、効果を確認している。

 バンカーバスターは、かなり前から存在を知られていたが、ついぞ実戦で使用される機会はなかった。

 こんどのイラン核施設攻撃で初めて実戦使用されたわけだが、早くも米メディアや情報組織から「せいぜい半年ぐらい核開発を遅らせただけ」というような評価が漏れ始めた。

 ちょっと考えれば分かることだが、重量13.6トンが高速で地面に突っ込み、強化コンクリートの遮蔽や天然の岩盤をくり抜いて、地下61bの深さで爆発するという仕様であれば、爆弾自体の外郭が分厚くて非常に重い金属製ということになる。

 であれば、中身の爆発物の量が当然、少なくなるという矛盾が生じる。

 今回の実戦使用で、この矛盾が露呈したのではないかという疑問が出てくるのは、むしろ自然の成り行きだろう。

 トランプ大統領は、ウラン濃縮施設を完全に破壊したと強がっているが、言えば言うほど信用度がなくなるという情勢だ。

 分析の第2は、「費用対効果」という問題である。

 アメリカの原爆は、ドイツ軍に対する新兵器として開発を開始した。しかし、ドイツが1945年5月に降伏したため、7月に完成した原爆の実戦使用を、日本の、しかも軍事施設でもない広島・長崎という都市、すなわち民間人殺戮を対象にしてしまった。

 このために、本来の新兵器を、その後の朝鮮戦争でもベトナム戦争でも、使用する理由(正当化)を失い、9・11同時テロの延長の対イラク戦争ですら使用することができなかった。

 核兵器の開発、製造と、その運搬手段であるミサイルや戦闘機、爆撃機、艦船など、どのくらいの費用がかかっているか想像を絶するものがある。

 しかも、その全部が、使えない兵器への出費となっているのである。

 バンカーバスター「GBU-57」も、極めて高価なB2ステルス爆撃機に2発しか搭載できない。もしこれでイランの核施設を完全に破壊できなかったと分かれば、もっと大型にするか、あるいは専用の核爆弾を開発するか考えざるを得ないだろう。

 そうなると、潜在的な敵の核を、核でもって破壊するという事態が待っているということになる。

 話は飛ぶが、もしトランプがそうした矛盾と悪循環を認識しているとしたら、この爆撃は別の目的を持って実行されたのかもしれない。

 それは、イランの最高指導者ハメネイ師に対し、どこに隠れていても殺せるんだぞ、と分からせるためだったと考えれば納得できるからである。

 実は、この話にはよく知られた前例があるのだ。

 かつてリビアの独裁者カダフィー大佐や、イラクのサダム・フセインなどが、毎日の居場所や寝所を転々と替えて、暗殺や米軍の攻撃を逃れていた。
 現在のロシア皇帝プーチンにも、やはりそういう動静が報道されている。

 ところが米軍は、レーガン政権の1986年4月、深夜にカダフィーの寝室に窓からミサイルを撃ち込み、家族をひとり殺害して見せた。

 実のところ、米軍はカダフィーが庭に張ったテントに寝るのを好み、寝室にはいないことを知っていて、わざと寝室にミサイルを撃ち込んだのだった。

 この実力による脅しは効果てきめんで、以後、カダフィーの言動は目に見えておとなしくなったと言われている。

 今月、トランプ大統領はわざとのように、「イランの体制変革を目的にはしていない」と言いながら、同時に「ハメネイ師がどこにいるか分かっている」と最高指導者の生命が自分の手中にあるとほのめかしている。

 つまり、核施設のような深い堅固な防空壕に潜んでいても、こっちにはバンカーバスターがあるんだぞ、と脅しをかけたとみることもできる。

 ずいぶん高価な脅しのようだが、これでイランが当面限りでも、全面降伏のような停戦に応じるならばそれでいい、というのが自分ファーストらしいとも言えよう。

 これでイスラエルが仕掛けた「イ・イ戦争」を終わらせたのだから、「ノーベル平和賞」に十分値すると自賛するに違いない。
(おおいそ・まさよし 2025/06/28)


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