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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.319
   by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

令和7年10月31日

      世界右傾化の潮流に乗れた高市内閣

 今月は、自民党総裁に高市早苗衆院議員が選ばれ、それを不満とした公明党が連立から跳び出し、新たに日本維新の会が閣外協力の文書を交わして新政権が発足した。

 その1週間後にトランプ米大統領が来日し、高市新首相と親密な関係を結んだと満足を示し、ほんの少し前の石破政権の日本とは様変わりの風景が現出した。

 今、世界がどう動いているのかを理解するいい機会が訪れたので、少し意外な感がするかもしれないが、かいつまんで説明してみよう。

 約9年前に金満家のトランプがいきなり大統領に当選し、翌年1月からのアメリカ政治がとんでもなく「アメリカ・ファースト」に、切り替わったように受け取るメディアが多いが、実際には世界の流れに乗っただけ、というのが専門家筋の多数意見である。

 つまり、いわゆる「グローバリズム」が限界に達し、欧米各国で元々の国民が移民や難民の流入によってひどい目に遭っている、という意識が高まってきた。

 その結果として、アメリカで「MAGA」(Make America Great Again)というアジテーションを掲げたトランプが大統領職を勝ち取った、と見るのである。

 ただ、トランプは政治人間ではなく、有能な閣僚たちに忠誠を求め、自分の不動産業の利益を国益と混同したりしたため、反「右翼」の自称「リベラル」をさらに左に追いやる結果となった。

 リベラル中道の多かった民主党に、自ら社会主義者を名乗る上院議員が現れるとか、同性結婚であることを売り物にするような有力議員が登場するに至った。

 その左右分裂がさらにひどくなり、トランプ大統領が再選に挑んでバイデンに敗れたとき、トランプ支持者が敗北を認めず(トランプ自身は勝利を盗まれたと表現)、翌21年1月の議会襲撃にまで発展してしまった。

 しかし時の流れは右傾化の方向を加速し、翌年10月にはイタリアで極右とまで言われたメローニ女性首相が誕生している。

 トランプも24年に、民主党候補に接戦州すべてで勝利して、4年ぶりにホワイトハウスに凱旋した。

 ところが他の西欧主要国を見ると、イタリアに続く右派政権を選択した国はなく、その逆を目指した英国、フランス、ドイツは、いずれも国内の政権基盤が衰弱し、自国ファーストの新興勢力が多数派になりそうな気配である。

 日本も例外ではなかった。すなわち、約1年前の自民党総裁選挙で、党内リベラルとして安倍政権や麻生政権に公然と、異を唱えてきた石破茂議員を総裁総理にしてしまった。

 その後の総選挙(10月)、都議会選挙(6月)、参議院選挙(7月)のすべてで自公が惨敗し、衆参両院で過半数を失った真の理由は、こういうことだったのである。
 また、参政党や日本維新の会といった新興勢力が、自民党の基礎票を奪ったとみられるのも、こういう分析によって説明できる。

 すなわち、石破政権が時流に反した選択であったことはまちがいない。しかし、日本は1年でそれに気づいたわけで、英仏独などよりよほどマシだといえよう。

 高市政権の登場によって、日本はイタリアに次いで右傾化の波に乗ったことになるが、メローニ首相の政権も3年が過ぎて、安定した政治状況を保っていることや、トランプとは特に親しくなり、フロリダの私邸に招かれるほどだという事実が、日本にとっても参考になるだろう。

 高市首相は、右傾化ではなく、むしろ自公連立政権が26年も続いたことで、自民党としてやるべきことができなかったという認識に立って、その是正に3年や4年はかかると考えているだろう。

 憲法問題を始めとして、集団安全保障や防衛費、対中外交、男子皇族を増やす案件など、ほとんどすべての懸案で、公明党がブレーキ役を果たしてきた。
 それが、こんどは維新や国民民主党の支持を得て、高市政権がアクセルを踏めるようになったわけだ。

 それを「保守化、右傾化」というのは正しくないだろう。

 韓国メディアは、高市総理に「極右」というレッテルを貼るのが得意だが、韓国自体が今年4月、保守派の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領を弾劾罷免して、いわゆる革新派(左翼、反日、親中)の李在明(イ・ジェミョン)大統領を選出している。
 つまり、時の流れに逆行する国の仲間に入ったばかりなのである。

 韓国民がこの間違いに気づくまでには、何年もかかるかもしれない。その間、日米の「ドナルド・サナエ」路線と衝突が起きるのは必然ではないかと予想される。

 日本側がどう働きかけるべきか、的確に先を読み、早めに手を打っていくことが望まれる。
(おおいそ・まさよし 2025/10/31)


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